吸血鬼に天国はない 1巻感想
『吸血鬼に天国はない』は、運び屋をなりわいとしている主人公シーモアが、マフィアに追われている吸血鬼のルーミーを拾うところから始まる歴史風味ファンタジーです。
倫理も道徳もまったく機能しない社会で腐りかけているシーモアは、明るくも儚げなルーミーと出会い、どこにあるのかもわからない安全なところまで彼女を運ぶ仕事を引き受けます。
安全な場所を探しながら、一緒に生活したり仕事をしたりして、二人は交流を深めていく、というストーリーです。
ネタバレが問題になるタイプの話ではないですが感想にネタバレが書いてあるのでいったんここまでにします。
嘘ですネタバレが問題になるタイプの話です。
ヒロインのルーミーがとても可愛いんですよ。清楚なのに度胸があって、たまにいたずらっけを出してからかってくる。完璧なんですよね。最高です。
だが結局、彼女が最終的に握ったのは最初に指さした赤い毛布だった。
「いえ、やっぱりこれにしましょう」
「酷い奴だ。そんなにボクを辱めたいの?」
シーモアがわざとらしく辟易と首を振ってみせると、ルーミーは『んふふ』と喉を鳴らすようにして笑った。
ぎゅ、とその両腕が毛布をまとめて抱きしめる。その毛布全体に自分の匂いをつけるように、しばらくの間力を込めてから、彼女は笑みを深めた。
「だって、趣味に合わない、自分では絶対に買わない毛布なら、きっとこの先どれだけ時間が経っても、この毛布を使う度に私のことを思い出してくれますよね?」
金色の瞳としばらく見つめ合ってから、シーモアは降参だと両手を挙げたのだった。
いいですね。素晴らしい。シーモア自身は彼女との契約を果たしたあとは別れることになると思っていますが、その子を捨てるだなんてとんでもない。
絶対に別れるんじゃないぞと思いながらページをめくっていました。
「それで、いい夢が見られた?」
嘘でした。
本当に愕然としました。その後の破綻した関係での会話は読んでて辛いですし、ペンキをぶちまけるシーンでは胃の痛みさえ覚えました。
「それに僕は、ココアを入れるのが上手だよ」
これで全部だった。
シーモア・ロードという一人の人間の価値はこれで全部で、それできっと十分だった。
本当に限界を迎え、シーモアは意識を手放す。彼の嗜好を構成していた要素が全て分解されていく中で、それでもルーミーを見つめ続けた彼が、最後に見たのは彼女の微笑みだった。
「――――それは、とっても素敵」
その苦しさの先、ラストでのルーミーの想いの吐露とシーモアの告白。やはりハッピーエンドは最高ですね。
読んでよかった…… 本当によかった……
bookwalkerの定額読み放題で読みましたが、物理で買うことも検討するくらいには気に入りました。
間違いなく名作です。さっそく2巻を読んできます。